モンゴルビジネス最前線

今回はモンゴル貿易開発銀行本部より、エルカ国際部長のインタビューをお届けします。モンゴルの国際ビジネス最前線で活躍されるエルカ部長から、日本企業への期待、モンゴルの有力ビジネスセクター等々につきお話を伺いました。

 

―まず、最近のモンゴル経済、日本とモンゴルの経済関係についての概要を教えて頂けますか?

モンゴルで活躍する日本企業・製品

日本とモンゴルは、2017年に外交樹立45年周年を迎えましたが、二国間の経済関係が深まったのは、モンゴルが民主化・市場経済化した1990年以降です。現在、日本との貿易額は貿易総額の約7%を占めており、特に自動車は新車・中古車含め日本からの輸入が多いですね。また、精密機器の輸入も盛んです。例えば、島精機製作所のニットマシンはモンゴルのカシミヤ工場で多く使われていますが、日本製品は非常に性能が良く、短時間で質の良い物が量産できるためモンゴルの企業は好んで使います。モンゴルのカシミヤブランドで有名なGOBI(ゴビ)社の工場は、1977年に初の無償援助として贈られた日本からのプレゼントですが、今やモンゴルのリーダー企業にまで発展しました。最近は海外からモンゴルへの直接投資が活発になっていますが、日本からの投資も増えています。最近の大型案件で言うと、ソフトバンクグループとモンゴルの投資会社であるニューコムとの合弁事業である風力発電開発が挙げられます。また、重光商事は太陽光発電所をダルハンに建設し、現在新たな発電所をザミーンウドで建設中です。

日・モンゴルEPAの発効

日・モンゴル経済連携協定(EPA)*が締結されたことも二国間関係のハイライトですね。EPAの締結を受け、モンゴル貿易開発銀行(TDB)は東京駐在員事務所を開設しました。今後、東京駐在員事務所がハブとなり、モンゴルに関心を持つ企業、投資家が増えることを期待しています。*201667日に発効された。

―ウランバートルでは中国や韓国の製品もよく見かけますが、日本製品のほうが人気があるんですか?

日用品も、日本商品は大人気ですよ。特に女性は資生堂など日本のコスメが大好きで、私を含めファンが多いです。人気があるのは日本製品です。日本製品は高品質で長持ちですからね。

 

―日本とモンゴルの関係は、全体的には良好に発展していると感じます。ですが、経済的な結びつきで言うと日本は中国や韓国に後れを取っている印象があるのですが・・・

隣国・中国の存在

中国はモンゴルの南に位置する隣国であり、輸送コストが安いため、モンゴルの輸出の大半は中国向けです。モンゴルは内陸なので、例えば鉱物資源を日本に輸出しようとしても、中国を通る必要があります。モンゴル政府も中国一辺倒ではなく多くの国との貿易関係を発展させる必要性を認識していて、中国政府に対し関税額の価格交渉等、働きかけを行っています。韓国に関しては、多くのモンゴル人が出稼ぎに行っていますね。モンゴル人にとって韓国は「働く場所」、日本は若者が留学して「学んでくる場所」という意識が強い印象です。

「モンゴル通日本人」の必要性

日本からの投資を呼び込むには、「モンゴル通の日本人」の存在が欠かせません。モンゴルの経済状況をよく知る日本人が少ないので、日本企業もリスクを取りたがらないのでしょう。TDB東京事務所はモンゴル経済の最新状況やモンゴル投資に関する情報を日本企業・投資家の皆様にお伝えするのが重要な仕事です。今回、このブログを読んでくださった方々にも、是非モンゴルに関心を持っていただきたいです。

ビジネス文化の違い

また、モンゴルと日本のビジネス文化の違いも理解する必要があります。モンゴル経済は非常にスピーディーに動きます。日本は長い時間をかけて調査をし、詳細を確認してから実行に移しますよね。モンゴルは速く進めていきたいので、「検討中です」と言われてしまうと、両者のタイミングがずれてしまう、ということが多々あります。ただ、モンゴル人も日本のビジネスの仕方を学んできていますし、調査を徹底するという日本の姿勢は素晴らしいと思います。

 

―日本の企業、投資家への期待を教えてください。

モビコムの実績

日本の優れた技術をモンゴルで活かせる分野に是非投資していただきたいです。例えば、モビコム*は日本のKDDIの連結子会社ですが、モンゴルの通信分野の発展に大きく貢献しています。

*モビコム・・・モンゴル国において、国内携帯電話加入者シェアNo.1 (20176月時点)であり、携帯・固定通信、衛星通信、ICT分野において幅広いサービスを提供している総合通信事業者。2016年にモンゴル国商工会議所主催の「Entrepreneur award」において、「TOP10 Entrepreneur award1位に選出、2017年には同じく「Entrepreneur award」において、最上位であるグランプリを受賞した。(参照:http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2017/12/27/2886.html)

オーガニック分野の可能性

個人的にモンゴルで最も将来性があるのはオーガニック製品分野だと考えます。モンゴルには、様々なハーブやチャツァルガン(高栄養価の果物。英語名は”シーバックソーン”)、食肉など、おもしろい素材がたくさんあります。毛髪に良いとされるハルガイのシャンプーもありますね。オーガニック製品分野で、日本の商品基準にあうような付加価値を付けるための投資を行うことは将来性が高いと思います。

観光分野の魅力

また、観光分野も将来性があります。モンゴルの自然はとてもユニークでその魅力に惹かれる日本人は多いですが、まだ日本人観光客の期待値に沿えるインフラやサービスが整っていません。日本人のきめ細かな視点を入れることでモンゴル観光の質を高め、多くの日本人観光客を呼び込むことができると思います。

医療分野への期待

医療分野では、日本の技術が世界一だと思います。モンゴルの病院は最新設備が整っておらず、医療の質、技術不足等様々な問題を抱えており、治療を受けるために海外まで行く人も多いです。今後、日本の最新機器を可能な限り導入し、医療レベルの向上に繋がればと思います。

 

―日本に対するエルカ部長の個人的なイメージ、想いを教えていただけますか?

日本で学ぶ意義

モンゴルは日本を「第三の隣国*」として重視しており、経済分野にとどまらず、他分野でも様々な交流が進んでいます。日本は留学先としても人気で、90年代に多くの優秀な学生が日本政府の奨学金で日本へ留学しました。当時の状況では、モンゴル人が奨学金無しで日本へ留学することは考えられないですが、私の友人の中でもとりわけ優秀な人達が日本政府の奨学金で日本留学を果たしています。彼らの多くは日本で修士号まで取得し、卒業後は日本のトップ企業に勤めてから様々なノウハウ、経験をモンゴルへ持ち帰っています。日本留学経験者が今のモンゴルで活躍している姿を見ると、日本政府奨学金は、日本のモンゴルに対する最も大きな投資であったと実感します。

私自身は、スウェーデンに留学してMBAを取得しました。ただ、残念なことに、留学中は人種差別を感じる場面があり、黄色人種であるという理由でスウェーデンでの就職も叶いませんでした。日本に留学した友人は肌の色や国籍で差別を受けることはなく、ソニーをはじめ有名企業に就職する機会がありました。日本が多くの学びの機会をモンゴルへ提供してくれたことは、モンゴルの発展に大きく貢献してきたと思います。

*隣国である中国・ロシアとのバランスを保ちながらも過度に依存することなく、日本やアメリカ等との関係を発展させることを目的とした政策

モンゴル人と日本人の精神論

モンゴル人と日本人は、見た目が似ていますし、お互いどこか親近感を感じますよね。言語も同じアルタイ語属に属しているので、モンゴル人にとって日本語は学びやすいです。また、精神的にも通じるものがあると感じています。日本人の忠誠心、汚名になるようなことをしない、嘘をつかない、相手を騙さないなど、サムライ魂、武士道というのでしょうか。昔のモンゴル人も同じ精神を持っていたと思います。一つのことに忠誠心を持ち、自分の人生に恥じず、悪いことをしないように生きるという点で、モンゴル人と日本人は似ていました。この精神は、日本人の勤勉さ、日本製品にも表れていますよね。

変化してきたモンゴル人

残念ながら、現代のモンゴル人はそういった精神をなくしてしまったと感じます。遊牧民は厳しい自然と共存するため、厳しさを乗り越えるうえで精神力が培われました。モンゴル人も自分の名前を汚さず、忍耐力があり、常に自身を鍛錬するという民族だったんです。ですが、社会主義時代を経験し、モンゴル人の国民性は変わりました。また、モンゴル人の自然と調和しながら生活するという生き方も失われました。社会主義が終わると、モンゴル人は急に資本主義の世界に放り込まれ、お金の価値や働きを理解しないまま、お金を持ってしまったのです。お金の価値を誤って捉えてしまったことで、どうやったらお金を早く手に入れるかということばかりを追求するようになってしまい、社会全体で「国民が正しく生活し、お金を得る」という考え方がなくなってしまった。今のモンゴルは、権力の集中や格差も顕著です。権力が無いと何もできない世の中では、やる気までなくしてしまう。権力が無い人は貧しい生活を強いられ、気力や生き甲斐をなくしてしまっているのが現状です。

 

―日本もおそらく同じような課題を抱えていると思います。特に東京は忙しく、人を思いやる余裕もないと感じます。私はモンゴルに帰ってくるたび人の優しさに触れて、そういう心を思い出しますし、モンゴルの方が武士道や日本人の良い点に触れてくれるたび、自分の生き方を考えさせられます。

モンゴル人は皆熱い心を持っているので、他人のことは自分に関係ないとは考えず、出来るだけ手伝いたいと思って行動します。特に田舎の人たちはより熱い心、親切心を持っていますね。モンゴルには、モンゴル人の伝統的な考え方が国を正しい道に導くのではないかという考え方があります。今でも正しく生きようとする人はたくさんいます。その人たちの情熱が、社会を変えていくと信じています。

【エルカ部長と国際部バヤラ氏。ウランバートル、TDB本部にて。】

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鹿野 詩織
鹿野 詩織(かの・しおり)

8歳の頃、初めて出会った海外の友人がモンゴル人だったことがきっかけで、モンゴルに憧れを抱く。 早稲田大学国際教養学部在学中にモンゴル国立大学への留学が実現。 卒業後、アクセンチュア株式会社、外務省勤務を経て、日本国際協力センター(JICE)にて、モンゴルにおけるJICAの人材育成プロジェクトに携わる。 モンゴル滞在中は、孤児院支援、遊牧生活、起業も経験。 現在は早稲田大学公共経営大学院に在学し、モンゴル研究、通訳、執筆活動等を行っている。

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