「女の町」フチタンの今(2)「裾を上げて、目線は高く。これは私の生き様なんだから」
「女の町」フチタンの今(1)「うちの夫は最高よ。もちろん私も最高!」に続き、メキシコ・フチタンのお話。
子ども達に連れられて1軒の家を訪ねると、そこには小さな机と大きな花柄の刺繍が入った黒地の布が。フリーダ・カーロが愛したというフチタンの伝統衣装は、お母さん達の手から紡ぎ出されていたのだ。
この道何十年のお母さんが布を引き寄せ、白鉛筆で何を見ることもなくするすると下絵を描いていく。あっという間に、黒地に白の花が浮かび上がった。
なめらかな手付きで糸を通し、白い花を鮮やかなピンク色に染めていく。周りではしゃいでいたはずの子ども達はいつの間にか真剣な面持ちでお母さんの指先に焦点を合わせ、針と糸が布と交差する様子をじっと見ている。その目線の先には、大ぶりの花が堂々と浮かび上がった。
このドレスが素晴らしいのは、この刺繍だけではない。
「刺繍で描いた花は、私自身。花が最も美しく見えるように、裾を上げて、目線は高く。この地の衣装は、私達の生き様そのものなんだから」
こんな女性達の想いが詰まっているから、フチタンのドレスは美しい。
このドレスに身を包んだら、両手で裾を高く上げること。目線は高く、背筋は真っ直ぐに。自分自身である花を掲げて、美しく舞う女性達。自らの自信と尊厳を着こなす彼女達に、外野からの称賛はもはや不要なのかもしれない。
先日、小学校で仲良くなった子ども達の卒業式の写真が送られてきた。
裾を上げて、胸を張ってフチタンのドレスを着こなす姿にしばし目を奪われ、胸がじんわりと熱くなった。
小学校を訪問したときのこと、一緒に遊んだ女の子に何気なく「将来は何をしたいの?」と聞いたことを思い出した。10歳ほどのその子は黙ったまま、なかなか返事が返ってこない。すると先生が「この子は将来、自分のお姉さんと同じようにオアハカ・シティに行って働きたいんだ。シティに出れば、ここより良い仕事に就けるからね」と教えてくれた。
この村の子ども達は、この歳で既に家事をして家族を支え、学校を出たら1ペソでも稼ぎの良い仕事を探して働く。選択肢を考える機会なんて、ほとんど無いに等しいのかもしれない。日本の感覚で「将来の夢」を聞くなんて酷なことをしたのかもしれないと、胸がちくりとした。
では、彼女達は可哀そうなのだろうか?
そんなことは、決してないと思う。私が出会ったフチタンの女性は皆、美しかった。あのドレスを纏うのは、自信と尊厳を持った強くて美しい女性達なのだから。
次にフチタンに戻ったら、私にもドレスを一着縫ってくれるとお母さん達が言ってくれた。
フチタンのドレスに見合う自分でありたい。胸を張ってあの場所へ帰るんだ。
約束をそっと両手に乗せて、次の目的地を目指す。
早稲田大学国際教養学部、政治学研究科卒、モンゴル国立大学留学。
アクセンチュア株式会社、外務省、日本国際協力センター(JICE)、在モンゴル日本大使館にて勤務。
幼少期に1人の留学生と出会ったことがきっかけで、いつのまにかモンゴル尽くしの人生に。2022年6月からは世界一周の旅に出発。自身のウェブサイトKANO LABO(カノラボ)
https://kanolabo.comで旅のコラムや旅情報を発信中。
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