「女の町」フチタンの今(1)「うちの夫は最高よ。もちろん私も最高!」
その文化に、料理に魅了され続けたメキシコ旅。その中でも忘れられない特別な場所となったのが、オアハカ州にあるフチタンだ。フチタンといえば、その伝統衣装、「女性中心」といわれる社会、「ムシェ」と呼ばれる「第3の性」について語られることが多く、今でもサポテコ族の文化が色濃く残る特徴的な場所だ。
この地の伝統衣装が世界的に有名になった背景には、メキシコを代表する画家フリーダ・カーロがいた。大柄の花が咲き誇る衣装はフリーダのワードローブに加えられ、その美しさはとフチタンの女性達の文化は世界に広く知れ渡った。
また、フチタンが伝統的に有した女性中心の政治経済システムにフォーカスが当てられたのは、ドイツの民族学者・社会学者が執筆した『女の町フチタンーメキシコの母系制社会』の功績が大きく、既に30年以上も前の研究とはいえ帰国後に是非読んでみたい著書のひとつだ。
「ムシェ」というのは、女性にも男性にも属さない人達のこと。この地の人々は伝統的にムシェの人々を尊敬し大切にしていて、そこには差別も偏見も無いという。私が泊まらせてもらった家の3軒先にもムシェの人が住んでいて「あの人は普段は男性の恰好をしているけど、お祭りや行事では女性の姿で踊るんだ。有名な人で、映画にも出ているんだよ」と教えてもらった。
この魅力溢れるフチタンで、私は素敵な女性達と知り合った。
町の中心からバスで40分ほど揺られて到着した村でのこと。牛が鳴き、ココナッツの木が気持ちよさそうに伸びるその場所には、サポテコの家族の暮らしがあった。村に一つしかない小学校を訪れると、日本人なんて見たこともない子ども達が目を丸くして迎えてくれた。最初ははにかみながらこちらを窺っていたいた子ども達だったけれど、20分も経つと交互に私の手を引いて自分たちの家へと案内してくれた。
ある家で、トルティーヤ作りの名人だというお母さんに出会った。フチタンの女性達の暮らしを聞いてみたい!と思い、サポテコ語⇔スペイン語⇔英語を往復しながらお母さんとガールズトークスタート。
「あんた、結婚してるの?子どもは?」
「結婚はしているけど、子どもはいないです。ここの子ども達は何歳くらいで結婚するんですか?」
「13とかで結婚する子もいるわね。うちの上の子はもうハタチだけど、宗教が違うからまだ結婚は焦ってないのよ」
「13・・・!?みんなお見合いですか?恋愛結婚?」
「基本は恋愛結婚ね」
「お母さんも旦那さんと好きで結婚したってこと?」
「もちろん!!」
「旦那さん、イケメン??」
「もちろん!!!!!」
何十年経っても「うちの夫はイケメン!」と即答できるお母さんは、さっぱりと良い顔で笑っていた。
そのイケメンの旦那さんを見てみたいと思い辺りを見回すも、どうもこの家に男性の影はない。この家どころか、この村に来てから会うのは全員女性だった。「これが女性中心のフチタン社会・・・?」と思い聞いてみると、男性は皆外に出稼ぎに出ているらしい。
伝統的に女性が働き、首長にもなって社会をけん引してきたフチタンが「女性が強い社会」と言われるのは間違いではなく、男性優先のマッチョなメキシコ社会で稀有な存在であることは確かだ。ただ、かつて言われていたほど女性が中心の社会というわけではなく、現地の人の間では男女のパワーバランスは均等だという認識が強いという。
日本から来た私にとっては、田舎の農村に住む女性達が当たり前のように「男女のパワーバランスは同じ」と言うことが衝撃的で、このコミュニティに対し尊敬と憧れを抱かずにはいられなかった。現代のフチタンでは男性はより良い稼ぎを求めて出稼ぎに、女性は地元で働きつつ家を守り子育てをするという環境から「嫌でも強くなっちゃうのよ!」ということらしい。「うちの旦那は最高!でもあたしだってこんなに強くて最高!」と笑い飛ばす姿は、私が憧れた強くしなやかなモンゴル人女性達と重なった。
早稲田大学国際教養学部、政治学研究科卒、モンゴル国立大学留学。
アクセンチュア株式会社、外務省、日本国際協力センター(JICE)、在モンゴル日本大使館にて勤務。
幼少期に1人の留学生と出会ったことがきっかけで、いつのまにかモンゴル尽くしの人生に。2022年6月からは世界一周の旅に出発。自身のウェブサイトKANO LABO(カノラボ)
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