並べて眺めてみた!モンゴルとスリランカー⑤ありがとう、と君に言われると

モンゴル語で「ありがとう」は「Баярлалаа(バヤルララー)」と言います。「エル」と「アール」の発音が入り混じる実に言いづらい単語で、なかなかうまく言うのが難しい。頻出単語トップ3に君臨するであろう「ありがとう」に限ってなぜ・・・!と、涙ぐむ方がいらっしゃるかもしれませんが、実はモンゴルの人々、この言葉をあまり使いません。また、私たち日本人がすぐに口にする「すみません」はモンゴル語で「Уучлаарай(オーチラーレー)」と言いますが、こちらはさらに使用頻度が下がります。

 

モンゴル人の「ありがとう」と「すみません」の一例

(物を渡したとき)「ザ(≒ありがとう)」

(間違いを指摘したとき)「おー、ザーザ・・・(≒あぁー、そうかぁ、すまない)」

 

このように、「ザー」という非常に便利な単語をありとあらゆる場面で使い分けることで、はっきりと感謝と謝罪を述べることなく会話が成立するのです。日本語では「すみません」という単語ひとつで「Thank you」「Excuse me」「Sorry」を表すことができるため、外国語をしゃべっていても「すみません」の感覚でつい謝罪の言葉が出てきてしまうことも。対してモンゴル人は、自らの非を認めるような謝罪の言葉は軽々しく口にしません。時に強力なネゴシエイターもしくは弁護人として、(たとえ自分が悪かったとしても)最後まで「すみません」は口にすることなく交渉・口論ができる。モンゴル人は、非常にタフな人々なのです。

 

では、スリランカの人々はというと、こちらも「ありがとう」と「すみません」をほとんど言わないことが分かりました。スリランカで最も多く使われているシンハラ語で「ありがとう」は「Stutti! ස්තුතියි(ストゥーティー)」と言うらしいです。短いし、響きがなんともかわいい単語ですが、確かに耳にしたことは無いような・・・。「すみません」は「Samavenn සමාවෙන්න(サマーウェンナ)」と言うそうですが、スリランカの方に聞いてみると、めったに口にしないらしいのです。スリランカの人たちは困っているとすぐに助けてくれるし親切なのに、どうして「ありがとう」と「すみません」を口にする場面がないんだろうと不思議に思っていましたが、スリランカの仏教観にその答えがありました。

スリランカでは、個人の悟りや幸せを優先するという小乗仏教が主に信仰されています。誰かに何かをしてあげるというのは、自分の徳を積んでいるということ。結局は自分のためにやっているのだから、そこに感謝や申し訳ないという言葉は必要ない、という感覚らしいのです。何か施しを受ける側も同じで「何かしてもらって申し訳ない、ありがとう」という思いは持たず「相手も得を積んでいるのだから」と素直に厚意を受け取るのだそうです。全体的に「持っている人が持っていない人に与えるのは当たり前」という認識を持っているスリランカ。何かあればすぐに「自己責任論」が持ち上がる日本とは、随分考え方が異なるようです。

 

数年前、「ありがとう、と君に言われるとなんだかせつない」と歌っていたのは宇多田ヒカル。

モンゴルやスリランカで、そのせつなさを感じる機会はなさそうです。

 

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鹿野 詩織
鹿野 詩織(かの・しおり)

早稲田大学国際教養学部、政治学研究科卒、モンゴル国立大学留学。
アクセンチュア株式会社、外務省、日本国際協力センター(JICE)、在モンゴル日本大使館にて勤務。

幼少期に1人の留学生と出会ったことがきっかけで、いつのまにかモンゴル尽くしの人生に。2022年6月からは世界一周の旅に出発。自身のウェブサイトKANO LABO(カノラボ)
https://kanolabo.comで旅のコラムや旅情報を発信中。
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