中央ゴビの旅(2)紀元前約3000年アート

バガ・ガザリーン・チョロー

中央ゴビの自然は、その剛健さが清々しい。砂と草が陣地取りをするように混在する地面を走って行くと、平野の中に突如、鋭く積み重なった岩山が現れた。中央ゴビの見どころの一つであるバガ・ガザリーン・チョロー(小さな地の石)だ。花崗岩が全身でぶつかり削り合って長年をかけ堆積した姿が、空に向けて声高らかにその存在を知らしめている。対岸に見える岩山の頂上付近に目をやると、何か動く物陰が見えた。ドライバーのトルガさんが興奮して、望遠鏡を覗き込む。どうやら、鹿の一種らしい。「もののけ姫」さながらの風景を目の前にしばらく声を出すこともなく、野生の美しさに圧倒されていた。

デル山

紀元前約3000年頃の青銅器時代に描かれた約3000個のペトログリフや墓、碑文が発見されたというデル山。注意深く登って行くと、行く先々に古代岩絵を見つけることができた。

動物の絵が多く、古代から続くこの地で暮らしてきた人々と動物たちとの関係の深さを窺い知ることができる。人が動物を連れて歩く様子、背後から弓矢を引いて獲物を狙う様子、ゲルのような形をした家も見つけた。こんなに時が経っても、ここで暮らしてきた人々の生活の基礎は変わっていないなんて。

ドライバーのトルガさんは元力士、そして実家は遊牧民だ。岩絵の中の小さな人影に、トルガさんの顔を当てはめて想像してみる。紀元前3000年に住むトルガおじさんもまた、馬に跨り狩りをしたり、取っ組み合ったりしていたのだろう。

そんなことをして過去と遊んでいると、長く勢いのある風が吹いた。

風音と共に、2021年現在のトルガさんが呼んでいる声がする。岩絵の人々を後に、下山した。

 

目の泉

「次はこっちだ」と手招きするトルガさん。小走りに後を追うと、こんな看板が。

どうやら、この岩山のどこかに「目の泉」とやらがあるらしい。そして、その泉から湧き出る水を目に当てるとどんな目の病気も治ってしまうらしい。「へぇ~」と生返事をひとつ返して、とりあえず探してみる。背の低い、小さな岩山だ。しかもご丁寧にこんな看板まで用意して待ってくれているのだからすぐに見つかるだろうと呑気に泉探しに繰り出したものの、なかなか見つからない。だんだん本気になって目を凝らしていると、トルガさんがまた手招きする。「この石、どかしてみて。」目を細めながら囁く彼の言う通りにしてみると、50センチほどの穴が見えた。覗き込むと、ワイヤーで吊るされた小さな柄杓がくっ付いていて、その先に液体が揺れている。

クプクプと笑うトルガさん。私達にバレないように、こっそり石を乗せて隠していたらしい。柄杓に収まった水は怪しい浮遊物だらけで実際に目に当てる気にはならなかったが、トルガさんの笑顔に押されて指ですくうところまではやってみた。医者も薬もなかった昔々は、本当にこの水で目が治ったのかもしれない。あるいは、そう信じるしかなかったのかもしれない。もしくは、現代医療の恩恵に預かることのできる私が、自然を信じる力をなくしてしまっただけなのかもしれない。

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鹿野 詩織
鹿野 詩織(かの・しおり)

8歳の頃、初めて出会った海外の友人がモンゴル人だったことがきっかけで、モンゴルに憧れを抱く。 早稲田大学国際教養学部在学中にモンゴル国立大学への留学が実現。 卒業後、アクセンチュア株式会社、外務省勤務を経て、日本国際協力センター(JICE)にて、モンゴルにおけるJICAの人材育成プロジェクトに携わる。 モンゴル滞在中は、孤児院支援、遊牧生活、起業も経験。 現在は早稲田大学公共経営大学院に在学し、モンゴル研究、通訳、執筆活動等を行っている。

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