人生を変える―バトフー先生と介護実習生の挑戦<インタビュー記事(後編)>

介護の世界でモンゴルの未来に貢献しようと奮闘する、バトフーさん。

自分の人生を変えるため、日本で介護実習生として働くことを目指す、女性たち。

前編(Click)では、シングルマザーとなった女性たちが直面する課題、そして、介護実習生として日本で働くことで描かれる彼女たちの未来について、バトフーさんからお話を伺いました。

バトフーさんの活動の原点にある想いとは、そして、介護実習生を目指していたトールさんは今どうしているのか・・・?

後編をどうぞ。

 

―アジア母子支援センターでは、技能実習の送り出しのほかにも実施しているプロジェクトがあると伺いました。「海外里親プロジェクト」についても教えてください。

<「本当に支援になるの・・・?」新しいプロジェクトは、疑問を抱きながらのスタートだった。>

私たちが支援をしているシングルマザーの中には、家庭の事情などで日本へ行きたくても行けない人がいます。こういったお母さんの子育てを応援するのが、海外里親プロジェクトです。対象は2名以上の子どもを持つシングルマザーの家庭。各家庭から1人の子どもを選んで日本の里親と繋げます。里親は毎月決まった額を「里子」であるモンゴルの子どもへの支援金として送ることで生活の手助けをして、私たちが仲介しながら交流することも可能です。このプロジェクトは、みらいフォスターリエゾン国際機構との協働プロジェクトで、私はモンゴルでのコーディネーターを担っています。

正直に言うと、このプロジェクトの話を聞いたときに「すごく良いプロジェクトになる」という実感はなかったんです。もちろん趣旨に賛同して始めたのですが、毎月の決まった額を送ったところで、家族にとってそこまで重要な経済支援にはならないのでは、という思いがありました。

<心の靄が晴れた日。支援とは・・・誰かの希望を繋げること。>

その意識が変わったのは、忘れもしない2021316日のことです。その日は、日本から届いた支援金を初めて届けた日だったんですね。支援を受けている子は8歳の女の子で、3人兄弟の真ん中。16日の夕方、兄弟3人で写っている写真が私の手元に届きました。そこには、「私は絵を描くのが好きなので、日本のお母さんが送ってくれたお金でノートと鉛筆を買いました。残ったお金で、お兄ちゃんと弟にお菓子を買ってあげました。」と女の子からのメッセージが添えられていたんです。たった8歳の女の子とは思えないような言葉で想いが綴られていて、胸がいっぱいになってしまって。私が当初心配したような金額の問題ではなくて、「誰かが私を大切に想ってくれている」ということが、その女の子にはちゃんと伝わったんですね。日本の仲間にもすぐシェアして、一緒に涙を流しました。

私には8歳、6歳、4歳になる3人の娘がいますが、自分の娘とこの女の子をどうしても比べてしまうことがあります。逞しく生きる子どもたちの将来のために、気持ちだけの支えだとしても繋がること、出来ることをやってあげることで、彼女たちが将来に希望を持てるんじゃないかなと思いました。今後はこの海外里親プロジェクトにもより一層注力していきたいですね。

 

―バトフーさん達の活動で、多くの女性、子ども達が勇気をもらって未来への希望を抱くきっかけをもらっているんですね。活動する上で、バトフーさんの気持ちを支えているものは何でしょうか。また、今後の目標を教えてください。

 <日本での学びを周りの人のために活かすこと。それが私の”恩返し”。>

私は縁あって日本語を勉強して、日本の国民の皆さんのおかげで留学までさせてもらうことができました。日本では奨学金をもらってすごく充実した留学生活を送ることができたので、この経験をできるだけ他の人たちにも分けてあげたいという想いがあります。特別な機会を与えられたのだから、できるだけ他の人にもチャンスを広げていかないといけない。それが、私の奨学金を毎月払ってくださった日本の皆さんに対する少しばかりの恩返しになるんじゃないかと思っています。

<ここから描く、モンゴルの未来>

今後は、私が送り出した技能実習生の中から優秀で信頼できる方を何名か選んで、モンゴルで訪問介護のサービスを提供できればと考えています。今は介護士がいないモンゴルですが、日本で学んだ人たちが専門知識をもって介護現場で活躍できるようにしたいです。

アジア母子支援センターで送り出す人たちのことは、性格も努力の様子もしっかり見ていますよ。授業料は最初から無料にしてしまうと責任感が芽生えないので、最初の3カ月だけは大きな額ではありませんが授業料をもらいながら、自分がどんな人間なのか私たちに見せて下さいと伝えています。その3カ月間で努力して、日本社会でやっていけると判断すればその後の授業料は無料になります。途中で辞めてしまう人もいますが、介護というのは命に関わる仕事。簡単な仕事ではありません。いい加減な人を送ることはできないので、11人と真剣に向き合っています。

 

―動画の主人公・トールさんはその後どうしているのでしょうか。無事に日本へ行けたのでしょうか?

トールさんは無事日本へ行って、介護実習生として既に1年半働いています。動画の中では日本語がなかなか上達しないと悩んでいましたが、その後とても頑張って、日本へ行く前に日本語能力試験N3レベルを取得しました。彼女が日本へ行く前は、お母さんと妹、娘と一緒にゲルで暮らしていましたが、彼女の仕送りのおかげで家族はウランバートルにアパートを借りることができたそうです。もうひとつ嬉しかったのは、年の始めに介護士の中から優秀な人材を決定するのですが、今年はなんとトールさんが優秀者に選ばれたんです。モンゴル人の実習生の中だけでなく全体の中から選ばれたのですから、すごく名誉なこと。私は内心では彼女のことをすごく誇りに思っていますが、外ではあまり言わないようにしています。

「厳しいバトフー先生」として、「もっと頑張らなきゃいけないですよ。あなたのことを思って支えてくれる人たちに感謝の気持ちを忘れないこと。小さな成功に喜び過ぎず、もっと頑張るんですよ。」と伝えています。今後の彼女たちの成長と活躍が、とても楽しみです。

 

トールさんの介護実習生への道は、こうやってスタートしました。是非、こちらの動画もご覧下さい。

 

この記事を書いた人write

鹿野 詩織
鹿野 詩織(かの・しおり)

8歳の頃、初めて出会った海外の友人がモンゴル人だったことがきっかけで、モンゴルに憧れを抱く。 早稲田大学国際教養学部在学中にモンゴル国立大学への留学が実現。 卒業後、アクセンチュア株式会社、外務省勤務を経て、日本国際協力センター(JICE)にて、モンゴルにおけるJICAの人材育成プロジェクトに携わる。 モンゴル滞在中は、孤児院支援、遊牧生活、起業も経験。 現在は早稲田大学公共経営大学院に在学し、モンゴル研究、通訳、執筆活動等を行っている。

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