MESSAGE元 在モンゴル日本国特命全権大使 ご挨拶

モンゴルの魅力について

元在モンゴル日本国特命全権大使
清水 武則

私が外務省に採用され、モンゴル専門家の道を歩き始めたのが1975年。大使の職を辞するまでの40年余あまりの間に4回ほどモンゴルの日本大使館に勤務しました。初めて外務省研修生としてモンゴルの地を踏んだ1977年頃はちょうど社会主義体制全盛期で、資本主義国である日本から来た若い外交官にはとても厳しい時期でした。モンゴルの国民には言論の自由も参政権も財産権もなく、日本のような資本主義国の人間との接触もご法度でした。

孤独感の中で、それでも国立大学の先生や学生の中には親切にしてくれる“隠れ親日派”がいたのがなによりの救いでした。1990年に民主化運動が起こった時、現場にいた私は嬉々として仕事に取り組みました。「これでモンゴル人が自由になれる。日本との関係も発展する―。」今日では信じられないことですが、日本大使が普段会える役人は外務大臣ではなくアジア局長のレベルだったのです。何万人もの若者たちのデモや集会が行われる中、「今こそ日本がモンゴル支援の先頭に立つべきである」という電報を打ったあの日を昨日のことのように思い出します。

このような経験をした私には、「自由や民主主義といった普遍的な価値観を有するに至ったこと」が何よりも貴重に思えるのです。今、モンゴルとは戦略的なパートナーシップを構築し、日本は国際場裏で協力し合っています。緊張する東アジアの中で日本の立場を理解し支持してくれる国が“モンゴル“なのです。政府首脳レベルの交流以外に、市民交流も確実に進展しています。1989年にわずか500人ほどだったモンゴル人訪日者が2016年には2万人に達しています。体制移行国モンゴルの試練に対する日本の誠実な支援はモンゴルで今でもなお感謝され、日本は身近な第三の隣国になりました。東日本大震災の時にはモンゴル全土で募金活動が展開されましたが、これはモンゴル国民がいかに日本に親近感を持ってくれているかの証でしょう。

モンゴルは13世紀に欧州とアジアをまたぐ大帝国を造った民族の末裔の国であり、その歴史や遊牧文化を学ぶことも興味が尽きませんが、17世紀に初代活仏ザナバザルが作った仏像群は世界の仏像の中でも最も美しいと思います。モンゴル人の芸術水準の高さは、馬頭琴、そしてホーミーといった民族音楽に加え、絵画やオペラなど今日にも継承されています。

1920年代にアメリカの探検家アンドリュースはゴビの赤い谷で恐竜の骨や卵を発見しました。その地域の大地の広大さは筆舌に尽くせません。西に行けば大平原の中に巨大な湖オブス湖(塩湖)やキルギス民族が住んでいたといわれるヒャルガス湖、東に行けば200キロ四方が大平原とも言われるメネンゲ平原など日本ではとても体験できない雄大な自然が広がっています。

モンゴルはまた、最近では石炭や銅、ウラン、金と言った地下資源大国としても注目されていますが、7000万頭近い家畜が遊牧形態で飼育されている珍しい国でもあります。民主化、市場経済化してわずか4半世紀を経過したばかりのモンゴルには産業を発展させるノウハウや技術力がまだまだ足りません。日本企業にとっても大きな可能性を秘めている国と言えるのではないでしょうか。